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「芳一君の酒屋奉公日記 W」

 造り留

 3月4日に最後の仕込みが終わった。
 酒造りから解放された気分になる。酒飲みが仕事ではないが、造り期間中には、まあ年中行事というかお祝い?というのかいろんな事で飲む機会がある。 まずは「顔合わせ」。造りに入る前に全員が呼ばれ「今年もよろしく」ということで・・・・。

 つぎは、「初しぼり」今年の最初の酒が搾られた日にお祝いをする。まず、酒の神様「松尾様」に御神酒として初めて搾った酒をあげて御礼をしてからはじまる。もちろん初めて搾られた酒の味をみながら・・・槽口(ふなくち)だ。
 でも、そんなには飲まない。慣れないうちは旨いからと、つい飲んでしまい次の日にえらいめに何度かあっている。だから、わりと早めに普通のお酒にきりかえる。
 そして、中帳場?造り期間中は休日がない。祝祭日も関係無しだ。けっこう体も疲れてくるので、ねぎらいの意味でしてくれる。飲み過ぎて、かえって疲れる場合もある。
 あと、最後が「造り留」だ。最後の仕込みが終わった日に感謝をこめて?お祝いの席がもうけられる。気持ちが解放されるせいか、いちばん酒の量がすすむ飲み会になるようだ。

 これらのことを会社側でしてくれるが、「造り留」の日に飲んだ量もけっこうあったらしい。つぎの朝は、全員あおい顔して静かだった。
 やはり造り期間中は、次の日の朝の仕事の事を考えるからそうは飲めないし、また、飲むと朝から酒のにおいの職場のつらいこと・・・・・。
 仕込みが終わったといっても、仕事が終わったわけではない。まだまだしぼりと後かたづけがいろいろと残っている。
 3月の終わり頃まで酒屋仕事はつづく。