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「影法師レコーディング顛末記」

出発の朝

  平成14年12月3日火曜日、朝少々早く起きて家のまわり雪囲いする。その後、冬季勤務先の「東洋酒造」へ出勤。次の日の仕込みのための米を洗米する。洗米だけを終わしてそのあと休みをもらって帰宅した。ここまでは日常の生活だが・・・。
  今日は、影法師が初のレコーディングということをすると言うことなんだそうだ。
  船山は残念ながら仕事の都合で行けず、青木、遠藤と横澤の3名が赤湯へ向かう。
  車の中は、これから始まろうとする非日常へのプロローグ、何となく不安と緊張感が入り交じったような雰囲気で駅に着く。
  バタバタしながらも向かうところは花のお江戸東京だ、9時58分発の山形新幹線は赤湯駅を離れ今回の非日常へと進んで行く。 

何でこうなった?

    数年前のこと、K氏と言うひとから一本の電話が入った。「全国に売り出してみる気はありませんか?」と言ったような内容だったように思う。「わたしたちはアマチュアでやっていきますし、仕事もありますのでそんな気はありません」とお断りした。
 わたしはまったく認識が無かったので大変失礼な応対をしたとあとで思ったが、メンバーに話したら「その人は、かつての名プロデューサーで今は有名なプロダクションの人だよ」と青木が言った。
  その後、別ルートで遠藤が話を聞いたりしていたようだ。そして昨年新曲「雨の永田町」と「つらい時代」ができた。ある時に遠藤から「CDを出してみないか?と言う話があるんだが、どうする?」「まさか、影法師のレベルではむりだべ」「そんなことして自分の仕事や生活に影響がでるど、まずいべ」「俺たちの思いを、問うてみるいい機会だと思わねが?」「乗ってみても面白いんでないか?」「今でも、大変なのにそんなことは無理でない?」けんけんがくがくしたが、結局めったにできない機会だからと乗ってみることに決定した。
  それでもまだ、半信半疑ながらも話は進んでいった。曲は「つらい時代」カップリングに「美しい村」K氏の選曲に意外な感じながら、なるほどとすごいセンスに脱帽。
  でも、まともな商業ベースに乗せるには影法師の演奏レベルではまずい。それでプロのミュージシャンがアレンジしてカラオケを作ってボーカルをそれに乗せる事になった。 最初に、キーや間奏などのチェックのためにデモテープが送られてきた。
「あれま、これ誰の曲?かっこいい!心地いい」メンバーそれぞれが聞いて意見を持ち寄り、直してもらって出来たカラオケは、自分たちにとってはまったく心地いい出来上がりだった。その後レコーディングに向けて、めったになく皆何回か集まってまじめに練習をした。

そして西麻布

   東京へ着いたのは昼過ぎになった。西麻布のスタジオへは東京からタクシーで向かった。 本当の録音スタジオへ来るのは初めてのこと、住所を頼りにタクシーを降りてうろうろしながらも何とかたどり着いた。
  「ON・AIR」というスタジオの前でK氏が待っていてくれた。初めてあったK氏はほっとできる温厚そうな人だ。K氏のあとについて中に入りエレベーターで地下3階まで下りて行く・・・・
  そこには、本物のスタジオがあった。 ちょっとした休憩ロビーを通り、ミキシング室に案内された。そこにはテイチクレコードのS氏とI氏それに技術者が2名待っていた。
  そしてその部屋の向こうには3重のぶ厚いガラスで仕切られたレコーディング室があった。打ち合わせのあと、さっそくレコーディング。「オ〜、これがよくテレビで見るようなレコーディングのマイクだ」「ストッキングのような薄い布が張ってある」皆、かなりテンションは上がってきている。

レコーディング

 最初は「つらい時代」から録音だ。レコーディング室は、ある程度の音の調節は各自手元で出来るようになっていた。ヘッドホンをかぶりいよいよ録音に入る、メロディーが流れてくる。

  間違っちゃいかん、うまく歌って行かなきゃと思い張り切って歌った。「けっこううまくいったかな?」と思っていたら、S氏が入ってきて「うまく歌おうとしなくて良いんですよ」「いつものようにのびのびと歌って下さい」「その方が影法師らしい味がある」
 みんなお見通しだった。それで、だいぶ緊張も取れて思いっきり歌うことが出来た。「美しい村」もあまりの心地よさについ歌詞を間違えそうになる。こんな感じで地下にこもってレコーディングしていると昼も夜も関係無い世界になるのがわかるような気がする。
  レコーディングは割と順調に進み午後1時に入ってでてきたときは5時をまわり、とりあえず録音を終了した充実感を胸にスタジオをでた。もう暗くなり始めていた東京の師走の肌寒い夕暮れの風もなぜか心地よかった。

そしてまた日常へ

  そこから、東京の友人U氏へ電話で連絡して急遽原宿の駅で待合わせ、いっしょに飲みながら今日の話を肴に夕食をして別れた。その後タクシーで東京駅に向かい今度はまた山形新幹線「つばさ」に乗って赤湯へ向かう。せわしかったような、長かったような、緊張したようなそして楽しかった一日が終わり、またいつもの日常へと戻って行った。