※※ 一つ前に戻る ** サイトマップ ** 表紙に戻る ※※

秘湯 広河原温泉

「 秘 湯 」と呼ばれる温泉  山形県南西部飯豊町の山中,福島県との県境近くに「湯ノ沢源泉・広河原温泉」と呼ばれる温泉がある。

 長井市から隣町の飯豊町に向かう。JR米坂線手ノ子駅の近くR113に、「白川ダム・源流の森(13.5q)」という大きな案内板があるので、ダム方面へと進路をとる。
 ダムサイトを左に眺めつつ、ダム湖にかかる中津川橋という赤い橋を渡り、更に上流に向かって進むと、やがてダム湖の対岸に向かう橋があり、「小国、源流の森」方面の案内板があるが、広河原へ行くにはその道に入らず、少し進むと右手の方向に分かれる舗装路があり、そこに「広河原温泉」と小さな表示板がある。表示のとおり右の舗装路へ入ると、今度は左手の方向に、見落としそうな「広河原温泉」と小さな表示板があるので、さらに道を分け入る。
 車1台分ほどの幅の舗装路を進むと、かやぶき屋根の集落が数件現れては、過ぎ去っていく。広河原の集落であるが、山あいの棚田も、畑も、野に帰りつつあるような山間の集落である。しばらく進むと山ノ神神社の所で、東沢と西沢に分かれる分岐があり、夏草に隠れるようにして、左側に「広河原温泉7.4km」の看板がある。
 道はラフロードにかわり、道端の夏草の陰には「石の祠」が見え隠れする。『千と千尋の神隠し』の導入部ように、この先に進めば現世に戻れなくなるんじゃないか?と思うほどの林道となる。道幅は、ワンボックスがなんとか走れる程度の車幅。欄干のない橋もある。その橋の幅は、真ん中を走っても左右にタイヤ1本半ほど余裕しかない橋である。
 路肩の崖から流れ出る沢水を、じゃぶじゃぶと越える場所もある。すれ違いのできない様な弱い路肩を車窓から見つつ、車の腹を路面から飛び出した岩のカドに打たぬよう、ノロノロと進むが、夏休み後半の金曜日のためか結構対向車も来るので、やや広がった場所までバックしてすれ違うことも度々であるが、途中すれ違ったボンゴが、激しく路面に腹を打って走り去っていく。林道の出口まで持つんだろか?
 道を越えて沢に流れ込む水のあるところには、必ずと言って良いほど「落石注意」の看板があり、一斗缶ほどの石やら、ドラム缶ほどの太さの木が転がっている。別に山がハダカな訳ではない。林道脇の山がそれほど急峻なのである。
 車を止める場所を見つけては、渓流やブナの木などにカメラを向けるのだが、それにつけても夏の終わりにしては「コシジロ」やら「アブ」やら、「ブヨ」が随分と多い・・・ 奴らときたら、車の排気ガスが好きなんじゃないかと思えるほど、車が止まると一斉に車に群がってくる。
 この「コシジロ」とこの辺りで呼ばれる虫は、清流の開けた場所にいることが多い<アオコアブ> と言うらしい。

・特徴 体長11〜13mmで雌が吸血し一般に7、8月の真昼に吸血する。
・症状 激痛を感じ、発赤、腫脹が見られ中央に硬結(硬い塊)を生ずる。 翌日あたりから激しい痒みが起こり2〜3週間持続する。

 普通、旧盆の頃を境に、数を減らすのが普通なのだけれどもなぁ。
 「アブ」と呼ぶのは<アカウシアブ>なのかもしれない。よく牧場などで牛にたかっている大型のアブ。これに吸血されると、コシジロに負けるとも劣らないほど痛い・・・

「ブヨ」は、<アシマダラブユ> のことだろう。

・特徴 体長2.5〜3.0mm、雌が吸血する。幼虫は渓流、小川、潅漑用水などに発生し成虫は渓流や小川の付近に 多く、朝夕2回の吸血活動が見られる。
・症状 径1cmくらいの丘疹を生じ、その中央に小出血点が認められるのが 特徴。 周期的に激しい痒みが起こり1〜2週間続くことがある。掻きすぎて細菌 の二次感染を起こすことも多い。

 いずれにしても、清流を好む虫で、環境に敏感らしく、川が汚れるといなくなってしまうという。そのテトリーを犯しているのは私なのだが、これから露天風呂に入ることを考えると全く憂鬱な存在である・・・
 なにせ奴らは、虫除けスプレーなどは全く気にしないし、Tシャツや、ちょっとした薄手の長袖なんかだと、服の上からでも食事(吸血)可能なのであるから。

 岐点から7.4Kmほどを走ると、林道の終点。道がやや広がって、「広河原温泉まで250m」の看板がある。以前はココが終点で、あとは歩くしかなかったのだが、今は温泉のすぐ下まで車で上がっていけるようである。気づけば、脇を流れる川の石がオレンジがかった赤茶色である。温泉の水が流れ込んでいるのであろう。
 しばらく行くと赤茶けた土が一面に堆積している事に気づく。看板があり、「湯ノ花」が堆積しているので立入禁止と書かれている。真っ赤な鉄分と黄色がかった湯花が辺り一面を覆っている。温泉から流れ出るお湯が、長い時間をかけてその析出物を沈殿させることによって描き出された文様が大変美しい。
 その後ろに、あっさりと周りを囲んだ場所と、隣接している2階建ての建物が見えてきた。
 看板があり利用時間は、10時から3時まで。建物に回って入り口を入ると、右・男、左・女と脱衣室に別れているが、風呂はまったくの混浴露天!建物の2階はちょっとした休憩室になっている。駐車場に車が2台ほどあったが、脱衣場から風呂場を覗けば、誰も入っていなかった。湯船は、岩石をコンクリートで寄せた岩風呂風の造りになっており、10人は入れるほどの広さがある。
 さて、なぜこのお湯が「秘湯」呼ばわれされるかと言えば、山の奥の奥、林道の終点にあるからでもあるけれど、ここの湯は、炭酸ガスの圧力で噴出する間欠泉を泉源としている。
 間欠泉自体はさほど珍しくなく、間欠泉からお湯を引いた湯宿もある。しかし、ここは間欠泉の源泉そのものが湯船!なのである。
 湯船のちょうど真ん中に池の噴水のごとく「噴出口」がある。そして、湯船の真ん中にあるパイプから不定期に、湯が吹き上げるというのだから見ているだけでも楽しい・・・
 間欠泉そのものに入浴できる温泉というのは、全国を探しても1つ、2つ、らしい。それゆえ、ここが「秘湯」と呼ばれる。
 湯船の真ん中にあるパイプから出るお湯の勢いは、あくまでも自然の成り行きのため強くなったり、弱くなったりと繰り返し、5〜10分置きに吹き出していた。地元の人の話によれば、1日に1回程度は、隣接する休息所の2階の屋根ほど吹くことがあり、年に数回、10m近くも吹き出すこともあると。ぜひ見てみたいものだ・・・・

 ここ、飯豊町では、もっとも古い温泉であり、かつては宿も有って往事の賑わいを記録する写真もあるほどの所だった。
 しかし、なにせアプローチが車でも困難なほど山奥であり、もちろん冬季は人も通わぬ所である。ずいぶんと昔に宿が無くなって以来、長い間、お湯だけが噴き出しているという秘湯中の秘湯だったが、現在は管理している地元の飯豊町が観光客誘致というよりも、この間欠泉保護のために整備したという。

 湯船のお湯は、色は茶褐色で透明度はゼロに近く、白いタオルは、赤く染まる。硫黄臭というか、鉄臭もあり、吹き出るお湯を口に含むと、錆びたスプーンを口に含んだような味で、苦くピリピリする。泉温は、35.1度とあるが、そのとおり、大変ぬるい。週末の土曜・日曜は、町から委託された管理人が小さな風呂を沸かしてくれるとか。
 しかし、泉質が炭酸泉であるという事と、塩類が含まれているのでゆっくりと入っていると、風呂上りはポカポカと湯冷めしにくいお湯である。湯冷めしにくいといっても、雪解け後の春や、秋本番の気温が下がる頃には、ぬるすぎるであろう。
 でも、ゆったりと入れる夏には、「コシジロ」やら「アブ」やら、「ブヨ」が一番の大敵となるので、これも、「秘湯」たる所以なのかもしれない。(2002年晩夏)

 追伸
 今は、まだ雪に閉ざされたかの地ですが、間欠泉は休むことなく湧き出ているでしょうから、猿とか、冬眠から起き出した熊なんかが、ゆったりと湯船に浸かっているのかもしれません。(2003年浅き春)

※湯ノ沢源泉・広河原温泉データ
・泉  質
 含塩化土類重曹泉(ナトリウム.カルシウム−炭酸水素塩・塩化物泉)
・源泉温度
 摂氏35.1度
・効  能
切り傷、火傷、神経痛、筋肉痛、関節痛、五十肩、運動麻痺、関節のこわばり、打ち身、くじき、慢性消化器病、慢性婦人病、痔疾
冷え性、病後回復期、疲労回復、健康増進など
・営業時間
   10時〜15時 (現実的には、常時吹き出しているのだから24時間無休か?)
・料  金
   無  料
◆その他
・利用期間は、6月中旬(雪解け)〜11月中旬(降雪)まで。
(冬期間は、なだれ等の危険性があるため利用不可能)
・現地には公衆電話はなく、携帯電話の通話エリアが圏外です。現地及び道中、連絡が不可能なので、十分に気をつけてください。
・問い合わせ
飯豊町役場商工観光課 0238-72-2111(代表)